アタシの中でナンバー1サイファイムービーを作り上げたクリストファー・ノーラン監督がとうとうアカデミー監督賞を勝ち取った…と、巷で話題の映画「OPPENHEIMER」を観に行って来たエヂです⎛´・ω・`⎞
アメリカ本国では、映画「Barbie」と同時期に公開されていた今作ですが、色々とセンシティブな事情で日本公開だけ遅れに遅れてしまった経緯があります
映画はクリストファー・ノーランらしい作りになっており、ストーリーは非常…に複雑…
3時間という長丁場を集中して過ごすためにも、ぶっつけ本番で観るより、ある程度予備知識を入れてから観る事を強くオススメする( ˘ω˘
あらすじ
時は1954年のアメリカ
聴聞会の場で、激しく糾弾を受けるオッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、原爆の父と呼ばれる科学者であり、原爆を完成させた立役者だった
そんな彼に対して、国家機密へのアクセスを認可しつづけるべきか否かを判断するのが、聴聞会の目的であり、過去の彼の言動をまとめた膨大な資料をもとに、彼は毎日のように質問を浴びせられていた…
そして、彼の証言をもとに、彼のこれまでの半生が語られていく…
1926年、ハーバード大学を最優秀の成績で卒業したオッペンハイマーは、イギリスのケンブリッジ大学、ドイツのゲッティゲン大学を経て、ニールス・ボーア(ケネス・ブラナー)らとの出会いから理論物理学の道に進み博士号を取得したのち、アメリカに帰国する
カリフォルニア大学バークレー校やカリフォルニア工科大学などで教鞭を取ることになった当時のオッペンハイマーは、自身の研究から核分裂を応用した原子爆弾の可能性を感じており、同じく開発に躍起になっていたナチスドイツで核分裂が発見されたというニュースに当時の彼らは大いに沸き、同時に焦りを募らせていた…
やがて第二次世界大戦が中盤に差し掛かった1942年10月、オッペンハイマーはアメリカ軍のレズリー・グローヴス准将(マット・デイモン)から呼び出しを受ける…
ナチスドイツの原爆開発に焦りを募らせていたアメリカ政府は、優秀な科学者を集めて原爆を開発する「マンハッタン計画」を立ち上げようとしており、そのプロジェクトリーダーにオッペンハイマーが迎え入れられる事になったのだ…
映画館で見るべき理由
この「OPPENHEIMER」は基本的に対話劇であり、派手なアクションは無いし、宇宙船が出てくるワケでも無いんだけど、映画館で観ると、核分裂や、とりわけ初めての原爆実験であるトリニティ実験の場面で、物凄い臨場感が得られるので、意外にも映画館向きだったりする
インターステラーのような派手さは無いんだけど、そこはやっぱりクリストファー・ノーランであり非常…にらしい映画だと思う
効果音、重低音から、古いレコードが出す雑音の音や音楽が、宇宙や原子を思わせる映像がフラッシュバックするのに合わせて効果的に使われていて、芸術的な雰囲気すら感じさせる…
クライマックスのトリニティ実験のシーンは、まるでその場に居合わせたかのような臨場感であり、静と動が相まって、それはもう凄いシーンになっている…
あの場面を最後にして、終幕の方向に持って行ってくれると、ある意味凄く観やすい映画になったんだろうけど、本当にこの映画が伝えたいのは、原爆が完成してから…
なので、ここからお話が長いというのは寧ろ当然なのかもしれない…
この映画が伝えたかった事
この映画は題名の通り「OPPENHEIMER」の視点で描かれており、原爆を題材にはしているものの、実はその原爆が実際に使用される様子…という部分の描写に関しては実は殆ど無かったりする
多少、それを思わせるシーンはあるものの、それは日本人が「はだしのゲン」なんかで見てきたようなものでは無いんだ
その点が…みたいな意見が非常に多い作品ではあるんだけど、原爆を完成させたオッペンハイマーはその時点でお役御免となり、彼は後にラジオのニュースで投下を知る事になるだけだし、当事者である彼はその映像を直視する事が出来ない…という事らしい
オッペンハイマーが最後に自分の作り上げてしまったモノが何だったのかを知り、その後、更なる破壊力を持つ水爆の開発を中止するよう声高に叫び、表舞台から追われてしまう様子は、罪と向き合おうと、贖罪を求めるようにも見える
誰でも思うのは、仮に「OPPENHEIMER」が作らなくても、原子爆弾…という大量破壊兵器はいずれ誰かの手によって作られていたのは間違い無いという事…
アメリカ側の理屈としては、そんな大量破壊兵器をナチスドイツやソ連に作らせてはいけない!というものであり、そこはやっぱりアメリカ側の正義が描かれるるワケなんだけど、元々、ナチスドイツに追いつけ追い越せで作り上げた原子爆弾が完成する前にナチスドイツは崩壊…
大量破壊兵器を作る力も無く、もはや虫の息だった日本に2発もの原爆を落とす行為は決して正義では無く、ただソ連にチカラを見せつけるだけ…という大国のエゴなんだけど、「使わないと世界はその恐ろしさを理解出来ない…」という理屈には恐怖する…
「核の抑止力」と呼ばれる、何時崩れるかも解らないバランスの上にある今の世界の成り立ちを知る…というのは必要な事でもあると思うし…開発者の苦悩を知る…そんな事を考えさせられる映画なのかも知れない…
知っておいた方が良い予備知識
先にも触れたんだけど、この映画は非常…に難解であり、基本的には対話劇であり、且つ登場人物も多いので、手ぶらで望むとちょっと3時間という上映時間を余す所なく楽しむのが難しい…
そこで、以下、最低でも知っておくといい予備知識を並べてみました(ネタバレ有り)
映画は最後のシーンから始まる
映画はオッペンハイマーが、聴聞会にかけられ、その中で過去の事を回想する形で進行する
この聴聞会の目的は水爆の開発をやめさせる運動をするオッペンハイマーを黙らせるために、権限を奪うことにあり、この機に陰からオッペンハイマーを蹴落とそうとするストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)との戦いでもある
ロバート・ダウニー・Jrはメガネをかけて白髪なので解りにくいんだけど、彼がオッペンハイマーを勘違いで逆恨みするのは知っておくべき
核の連鎖反応
オッペンハイマー達が核爆弾の開発に取り組んで、最初に発見した理論が「核連鎖反応理論」と呼ばれるもので、これは机上の計算では核反応の連鎖は大気に引火する可能性があり、もしもこの理論が正しい場合、核爆弾を爆発させたら、世界を破壊し尽くすまで連鎖反応を起こすかもしれない…という理論
これはあくまで理論であり、オッペンハイマーはこの理論が正しいかどうかを確かめるために敢えて部外者であるアインシュタインを訪ねる
ストローズは科学者にコンプレックスを持っている
ロバート・ダウニー・Jr演じるストローズはオッペンハイマーを憎み、聴聞会で陥れようとするのですが、彼は元々靴売りから政治家になった男であり、靴の移動販売で富を作って政治家になった経歴があります
ストローズは高卒であり、そもそも最初から教授や学者にはある種のコンプレックスを持っていたのかもしれません
アインシュタインとオッペンハイマー
オッペンハイマーはかつては偉大な物理学の天才だったアインシュタインを袖にした過去を持っており、アインシュタイン自身もロートルが表舞台から追いやられた事を理解しています
そんなアインシュタインだからこそ、原爆を作り罪の呵責に苛まれるオッペンハイマーの内情をも理解して、これから起こる事…それは彼自身も軽く経験してきた事を話します
いつか人々は君の罪を許すだろう。でも、それは君のためじゃない。
それは君の罪を咎めた彼ら自身のためなのだ。
アルベルト・アインシュタイン
そして、そんなアインシュタインにオッペンハイマーが最後にいう台詞こそが、この映画のラストであり真骨頂
核反応は大気に引火して世界を焼き尽くすかもしれない…と言う計算は結局は間違いだったけど、実際には世の中はそのようになってしまったのかも知れない…
つまり、最初の原子爆弾を作った事によって、世界は核の連鎖反応を起こし、核の抑止によって成り立つ新しい世界が出来上がってしまった…
この台詞を聞いたアインシュタインは言葉を失い、ストローズを無視してしまう…
非常に…難しい映画であり、良くこのテーマで3時間描けたな…と感心してしまうんだけど、知れば知る程にクリストファー・ノーランの凄さを感じる作品であり、映画好きなら必ず観た方がいい作品だと思う
日本公開は大人の事情で遅れに遅れてしまい、何か日本国内では話題にも上がらないんだけど、名作だと思います